2018年12月17日月曜日

前線のその後

 本の9-2「ベルゲン学派の気象学」のところで、いまや当たり前になっている寒冷前線や温暖前線などの古典的な前線の発見の経緯を書いた。それは異なる性質を持った気流の接触や空気の対流という18世紀のドーフェやフェレルの考え方を踏まえながら、ベルゲン学派(ノルウェー学派)の研究者たちが綿密な観測をもとに構築した概念だった。

 その後のベルゲン学派による普及活動などにより、この考え方が一般に定着したのはご存じの通りである。しかし、近年の研究はさらにこれを発展させている。新しい考え方は、低気圧が発達するにつれて、低気圧中心付近で寒冷前線が温暖前線からだんだん離れて立って行き、ある時点で温暖前線は東西に、寒冷前線は南北に近い角度を保つ。この前線の配置はT字形の骨つきステーキに似ていることから「Tボーン」とよばれている。そして、さらに発達すると低気圧中心で暖気核の隔離が起こる。ここが閉塞という考え方をとっていた古典的な前線論と大きく異なる点である。これはシャピロ-カイザーモデルとも呼ばれる(http://www.met.reading.ac.uk/~storms 参照)。



シャピロ・カイザーモデルにおけるTボーン前線(右から2番目)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Shapiro-Keyser_Cyclone.png

 ただ、観測が発達してくるにつれて、個々のケース毎に細かな違いが多くあることがわかってきており、低気圧や前線の形態を定型的な汎用モデルにまとめることは、難しくなっているようである。なお、前線のベルゲン学派以降の発展については、このブログの「シャピロ・カイザー低気圧モデル」でさらに補足している。
 
(つぎは「歴史と新たな発想」) 


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