「君の名は」などの映画で有名な新海誠監督が「天気の子」という新しい映画を作るという発表があった。この映画には天気を変えることができる能力を持つ子が出てくるらしい。この気象を操作するということは、昔から人間の願望だった。現在では気象改変として、人工降雨や気候制御などが真面目に研究されている分野である。
フランシス・ベーコン |
科学的な発想による気象を制御するという考えの発祥は、本の3-2-1「フランシス・ベーコンの自然科学に対する考え方」に書いたように、イギリスの哲学者フランシス・ベーコンが源になっている。自然を彼は利用するものと捉えただけでなく、そのために組織的、継続的な実験で収集した事実に基づく帰納的な科学的手法を主張した。この考え方は、組織的に科学を追究するイギリスの王立協会結成のきっかけの一つとなった。
また、1627年に出版されたフランシス・ベーコンの「ニューアトランティス」という小説では、「ソロモンの館」の科学者たちが気象を観測してさらに操作する。現在アメリカのコロラド州にある国立大気研究センター(NCAR)は、このソロモンの館による気象研究をモデルにして作られたそうである。
ただ、気象の研究者は気象を操作することには慎重な人が多いと思っている。本の10-8「カオスの発見」で書いたが、気象を司っている物理学は非線形である。これは、ある時のわずかな差が、時間とともに大きく変わっていくことがあるということである。気象予報に用いられる非線形のプリミティブ方程式では、観測での誤差などのわずかの差が時間とともにどのように発達していくかを正確に(つまり決定論的に)予測することは難しい。現在はアンサンブル手法などでその変動幅を把握しようとしているものの、この気象物理の非線形性が天気予報が当たりにくい原因の一つとなっている。
さらに気候には、大気や海洋の物理学だけでなく自然界のさまざまな大気化学成分、大気中の微粒子、それらの生物とのやりとりが関わっており、まだよくわかっていない反応過程や応答過程も数多くある。成層圏のオゾン層破壊の問題を見てもわかるように、不用意に気象改変を試みると、想定していないところに大きな変化が起こる可能性がある。気象を司るメカニズムの非線形性だけでなく、それら未知の反応や応答も気候変化に関連する可能性がある。
気象の操作は夢としてはよいが、近代気象学の大御所であったカール・グスタフ=ロスビーがかつて述べているように、私も自然を「むやみにいじると危険」[1]だと思う。
(次は「大気力学でのソレノイド」)
参照文献
[1]「嵐の正体にせまった科学者たち ―気象予報が現代のかたちになるまで」(Cox著、堤 之智訳)
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