2018年12月19日水曜日

歴史と新たな発想

 歴史の重要性について、少し補足しておきたい。啓蒙史観(進歩史観)という考え方がある。これは過去からの知識の積み重ねによって、現在は過去に優越するという考え方である。この考えが一面的に過ぎないことは明らかであり、この克服については長年にわたって既に数多くの議論が行われてきた。しかし今日でも我々はややもすると過去の人々が現在より劣っていたというような考えに囚われがちである。

 気象学に限らず、「古い考え方」イコール「間違ったもの」「役に立たないもの」とは限らない。例えば、フランスの社会人類学者で民俗学者のレヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)と数学者アンドレ・ヴェイユ(André Weil)は、1949年にオーストラリアの先住民族アボリジニの親族構造を研究している最中に、有名な数学者であるフェリックス・クライン(Felix Christian Klein)が発見した
「クラインの四元群」の考えを、アボリジニが古くから使っていることを発見した。これは、時代が変わっても人間の発想のパターンを決める心の構造は新石器時代から変わっていないという「構造主義」という新しい考えへと発展していった。
レヴィ=ストロース
 
 我々はいつの時代もその時代の観念の中にどっぷり浸って暮らしており、その囚われから抜け出すことは容易ではない。いつの時代でも先人たちはそこから脱却して新しい発見を行うために知恵を絞って苦心してきた。そして「前書き」に書いたように、幾人かの先人たちは歴史を振り返ること、理解することが囚われた観念から脱却して、新しい発想を見いだす手法の一つとなると言っている。

 例えば、一般に研究には新規性が問われるが、それでも流行のようなものがあり、ある分野が開拓されるとそれと似たような手法を用いる研究が数多く出てくる。しかし、そうなるとそれとは異なる発想を持つ斬新な研究はなかなか出てこないものである。そのような新たな発想が必要な場合に、過去においてそれまでのパターンを破った新たな研究がどうやって出てきたかを知ることは、現在無意識のうちにはまり込んでいる思考パターンを打ち破る参考になるかも知れない。そういったことも歴史に取り組もうと思った動機の一つである。

(つぎは、「ペリーとレッドフィールド」)

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