これはいってみれば過去の気候の数値的な再現であり「気候再解析(Climate reanalysis)」と呼ばれている。気候再解析はこれまで観測値がなかった地域や上空を含めて、全球の格子点上の気象データを時間的・空間的にシームレスに推測する。こうやって算出した再解析値を用いれば、過去の気象や気候のイベントをあたかもタイムマシンを使ったように詳しく分析することが可能になる。気候再解析は新たな気候学研究を支えるようになってきている。
「気象学と気象予報の発達史」(丸善出版)のこぼれ話など気象学の歴史に関連する話を補足、説明していきます。
このブログの操作法
・これまでのブログのタイトルは、右欄の「これまでのブログタイトル」のクリックで一覧できます。
・最下段の「次の投稿」、「前の投稿」から前後の記事に行けます。
2019年10月7日月曜日
気候学の歴史(10): モデル技術を用いた気候再解析 (History of Climatology (10): Reanalysis based on Data Assimilation)
これはいってみれば過去の気候の数値的な再現であり「気候再解析(Climate reanalysis)」と呼ばれている。気候再解析はこれまで観測値がなかった地域や上空を含めて、全球の格子点上の気象データを時間的・空間的にシームレスに推測する。こうやって算出した再解析値を用いれば、過去の気象や気候のイベントをあたかもタイムマシンを使ったように詳しく分析することが可能になる。気候再解析は新たな気候学研究を支えるようになってきている。
2019年10月4日金曜日
気候学の歴史(9): 気候モデルとコンピュータ (History of Climatology (9): Climate model and computer)
NCAR Mesa Laboratory, Boulder, Colorado |
参照文献
2019年10月3日木曜日
気候学の歴史(8): 気候モデルと日本人研究者 (History of Climatology (8): Climate model and Japanese researchers)
気候モデルの開発には、日本人研究者が大きく貢献している。その初期の代表格は以下の3名であろう。彼らによるモデル開発の内容は、本の10-7-2「大循環モデルの発明」と10-7-3「気候モデルへの発展」で詳しく述べたので、ここでは概略のみを記す。
真鍋淑郎
GFDLのスマゴリンスキーは東京大学から真鍋淑郎をスカウトした。真鍋は東京大学の正野重方教授の弟子で、いわゆる「正野スクール」の一人である。地球大気の熱収支に重要な役割を果たす二酸化炭素に高い関心を持っていた真鍋は、二酸化炭素濃度が上昇していることを知って、それによって気候システムがどう変わるのかに興味を持った。それを調べるためには、熱収支に大きな影響を及ぼす水蒸気を含んだ数値モデルを開発する必要があった。
彼は1967年に同僚のウェザラルド(Richard Wetherald)と一緒に計算量が比較的少なくて済む簡潔な1次元数値モデルを開発し、二酸化炭素濃度を当時の2倍(600 ppm)にして計算を行った。そして、平均的な雲量のもとで地球の平均気温が2.36℃上昇するという結論を出した [1]。また地表が温暖化するだけでなく、地球全体の放射バランスから成層圏が寒冷化することも示した。
さらに真鍋らは、1960年代後半から3次元の大循環モデルを開発した。1975年にそれを用いて2倍の二酸化炭素濃度で2.93°Cの気温上昇を予測しただけでなく、水循環の活発化、放射量の変化による成層圏の寒冷化、積雪域や海氷の後退などによる極域でのより強い温暖化が起こる予測を示した [2]。このモデル計算によって、「放射強制力」 という指標を用いた温室効果の定量的な議論が可能になった。
これらの気候研究は、気候変動についての国際的な関心を高め、政治家や民衆へも影響した。1979年には、アメリカ科学アカデミーが暫定委員会で気候モデルによる将来予測結果を検討し、気候モデルの予想する気温上昇が将来起きるという結論を政府に提出した [3]。さまざまな気候モデルを用いた地球温暖化の将来予測の研究結果から、世界気象機関(WMO)などの主導によって、1988年に「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)」が設立され、また1992年には地球温暖化防止のための「気候変動に関する国際連合枠組条約」の採択へとつながった。
地球の将来気候の予測には大きな比熱を持つ海洋と大気間の相互作用を取り入れる必要があり、そのためには大気と海洋を結合した数値モデルが必要だった。彼は1969年に海洋学者ブライアン(Kirk Bryan)と協力して簡単な大気海洋結合モデルを作った。その結果、実際に近い気温と水温の高度(深度)緯度断面の結果を示すことができた [4]。さらに1975年に彼らはより現実に近い海陸分布や水蒸気の循環を入れた大気海洋結合モデルを開発し、そのモデルは全球の平均的な気温分布、風の分布、蒸発域、降雨域などの基本的な特徴をおおむね正しく表現した [5]。これは数値モデルによって温室効果ガスなどが変化した場合の気候を予測できる可能性を意味した。現在、大気海洋結合モデルは、気候予測や地球温暖化予測において広く使われている。
荒川昭夫
一方で、UCLAのミンツは日本の気象庁にいた荒川昭夫をUCLAに招聘した。数学に秀でた荒川は、それまでできなかったGCMでの長期間計算を安定して行える新たなモデル手法を開発した。これによってGCMは気候を数か月以上にわたって計算することが可能になった[6]。また雲の効果を数値モデルで扱うための一般的なモデルプロセス手法(Arakawa-Schubert スキーム)を開発して、これらは世界中の多くのモデルで使われた。また、UCLA気象学部出身の研究者は世界各地の研究機関に移って、そこでUCLAのGCMを広めた。
笠原彰
笠原彰は1954年に東大地球物理学教室からテキサスA&M大学などを経て1963年にアメリカの気象学者フィリップ・トンプソン(Philip Thompson, 1922-1994)の招聘でNCARへ移った。彼はそこで同僚とともにGCMをコミュニティ化したコミュニティ気候モデルを開発した。コミュニティ化とは、モデル内の主な過程をモジュール化し、またモデルの中身について徹底した文書化を行って、複雑で大規模な気候モデルを大勢の研究者が比較的容易に利用、改修できるようにしたものである。これは今日でいうソフトウェアの「オープンソース化」という発想に似ているかもしれない。NCARは多数の大学から成る大気研究大学連合(UCAR)によって組織されており、彼らのモデルはその関連大学の多くで使われた。
気温などの予測を行うことによって、GCMは実質的に気候モデルとなり、さらに化学物質の循環の組み込みなどを通して地球化学や生物科学(植生など)とも関わるようになった。これらに関連するような過程を組み込んだモデルは地球システムモデル(Earth System Model)と呼ばれている。地球システムモデルは、IPCCでまとめられている地球温暖化の将来予測など、近年の地球環境問題の研究に欠かせないものとなっている。
(つづく)
参照文献
2019年10月2日水曜日
気候学の歴史(7):気候モデルの登場 (History of Climatology (7): Advent of General Circulation Model)
ノーマン・フィリップス |