2019年10月4日金曜日

気候学の歴史(9): 気候モデルとコンピュータ (History of Climatology (9): Climate model and computer)


 気象学(数値予報)とコンピュータ発達の黎明期(ENIACなど)との関係は本の10-2-2「電子計算機(デジタルコンピュータの出現)」の所で記している。同様にコンピュータの発達は気候モデルとも密接に関連している。コンピュータ発達の初期段階では、一部の核兵器研究と高エネルギー物理学分野を除いて、気象モデルや気候モデルはコンピュータに一般的な利用者をはるかに凌ぐ計算能力を要求したため、それがコンピュータのさらなる発達を促した面がある。

 また当初のコンピュータは、ハードウェアとソフトウェアが一体となって開発されていたわけではなく、コンピュータ会社が納入したのはハードウェアだけの場合も多かった。そのため、気象や気候の研究者と研究所のスタッフは、場合によってはオペレーティングシステム(OS)を含めて必要なソフトウェア類を自らプログラミングする必要があった。気象や気候のモデル研究者は、気象や気候の専門知識だけでなく、コンピュータ動作の高度なプログラミング能力を求められることも多かった[1]。

NCAR Mesa Laboratory, Boulder, Colorado
 さらに気候モデルを走らせるためのスーパーコンピュータは、一時期日米のハイテク摩擦を引き起こした。1985年にアメリカの国立大気研究センター(NCAR)はスーパーコンピュータの入札を行い、NECSX-2が落札した。しかしアメリカ議会の圧力でSX-2を購入できず、NCARCray社のスーパーコンピュータCray-2を導入した。

 19941996年に、再びスーパーコンピュータを巡る日米のハイテク摩擦が再燃した。NCARは老朽化したCray社のスーパーコンピュータを更新するための入札を行ったが、落札したのはやはり日本のNECだった。NECのスーパーコンピュータSX-4は当時のどんなコンピュータよりはるかに高い性能を持ったベクトルマシンだった。この抜群の価格対性能比の高さは波紋を引き起こした。Cray社は米国商務省に対してNECが入札で「ダンピング」を行ったと訴えた。商務省はCray社に味方して、454パーセントの関税をNECに課した。このためNCARSX-4を購入することができなかった。

 この商務省の決定を、再び議会の圧力によるものと見た人も多かった。訴訟が起こされ、それは最高裁判所まで行ったが、1999年の最高裁判所の判決は商務省を支持した。NCARは、世界で最も高性能なベクトル・コンピュータを購入できないことを嘆いた[1]。気候科学といえども国際政治と無関係というわけにはいかないのである。

 ちなみに次世代のNECのスーパーコンピュータSX-5は、その圧倒的な価格対性能比にCray社はついていくことができず、Cray社は結局NECのSX-5OEM化して販売することになり、スーパーコンピュータを巡る日米のハイテク摩擦は終焉した。

つづく

参照文献

[1] Edwards-2013-A Vast Machine: Computer Models, Climate Data, and the Politics of Global Warming, MIT Press.

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