地球は、太陽から放射エネルギー(熱)を受けている。地球全体で見ると年平均気温はほとんど変わらないので、これは物理学の法則からみるとこの惑星が熱平衡状態であることを意味している。言い換えると、最終的に地球が太陽から受け取る熱と同量の熱を宇宙へ放射している。これは地球が熱平衡状態にある限り、たとえ地球温暖化が起こっても変わらない。
ただし、地球が太陽から受け取る熱は熱帯や極域など地域によって異なっている。地球の気温分布を考えると、熱帯では宇宙に放射するより多くの熱を太陽から受領して、極域では太陽から受け取るより多くの熱を放射している。したがって気候システムは、熱力学エンジンとして、熱帯で受け取った余剰熱を極域へ運搬する役目を果たしている。
それゆえ、地球の気温分布は基本的に地球の「エネルギー・バランス」で決定されている。したがって、気候を何らかモデル化することは、地球の「エネルギー収支」から始まる。この「エネルギー収支」から地球気温を計算するためには、太陽放射、地表アルベド(反射率)、大気の吸収と放射のような要素を考慮する必要がある。さらに気温分布を知るには、大気や海の流れによる熱輸送を動的に考慮する必要がある。
ハンの「気候学ハンドブック」以来50年以上変わらなかった気候学だが、コンピュータと数値モデルが出現すると、状況が全く変わった。その発想が変わるトリガーの一つとなったのは、本の10-7-1「回転水槽(洗い桶)実験」に記したように、回転水槽実験である。これは第二次世界大戦後にアメリカとイギリスで始まった。アメリカのシカゴ大学では実験に当初食器洗いの桶を使ったことから「洗い桶(dishpan)」実験とも呼ばれている。この実験はアナログ・モデルの一種で、地球に見立てた粘り気がある流体を満たした水槽(桶)を一定の場所を熱しながら(太陽熱に相当する)、水平に回転させる。そうすると回転速度と温度勾配の条件(つまり熱輸送の状況)によっては、地球の高・低気圧と関連するプラネタリー波に似た流れの蛇行が水槽内に形成される。
この実験から、地球上の大規模な大気の流れは、地球独特のものではなく力学と熱力学の法則に従った普遍的な現象であることが明確になった。これは物理学を使った気候学へのアプローチ、つまり数値モデルを用いた気候研究が可能であることを示した。
(つづく)
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