2023年2月14日火曜日

日本の暴風警報と天気予報の生みの親クニッピング(5)

 6.    クニッピングの帰国

クニッピングはまじめで温厚な性格だった。またうまく人脈を築くことも得意だったようである。当初外国人を嫌っていた地理局長の櫻井勉とも良い関係を築いて信頼を得た [3]。ワグネルなど他の御雇い外国人たちと多くの交流を持っただけでなく、海外視察の際には外国の各地で知人を作った。

そして、クニッピングは休まずに驚くほどよく働いた。彼は明治15年(1882年)に採用されてから3年間毎日一日も欠かさず1日3回の観測と天気図の作成、警報と予報の発表を続けていた。中央気象台長となった中村精男はクニッピングを次のように評している [16]。

「クニッピング」氏は非常の勤勉家にて夙夜此の準備に没頭し,出ては全国を巡回して新設すべき測候所の位置を撰定し,入ては気象電報の符号,天気図の様式等を作製し、1ヶ年内に諸準備を完成し,事業開始後も毎日3回の天気図は必ず自ら調製して,予報,警報を発し病気又は公私の宴会等の場合に於ても天気図調成の時刻には必ず事務所に出頭し,在職中殆ど欠勤したこと無し。(原文はカタカナ)

当時気象台の日本人は「クニッピングは病気にもならずに、毎日絶え間なくずっと何年間も仕事を続けることがどうして可能なのだろうか」と話していた [3]。クニッピングは日本人の助手たちに1週間ずつ交代制で1日3回の気象観測を行うことを提案したことがあったが、とても耐えられないとの理由で彼らに断られた [3]。

明治18年(1885年)2月に今の皇居本丸にあった彼の宿舎が火事になり、10か月間築地のホテルへ住まいを移した。築地から気象台までは簡単には往復できないために、その時に初めて観測を助手たちに代わってもらった。

また、明治20年(1887年)9月には、クニッピングはアメリカの天文学者トッドとともに富士山に登って、気象観測を行っている。なお、富士山では明治14年(1880年)にアメリカの天文学者メンデンホールが東大の田中館愛橘らと既に気象観測と重力観測を行っていた。

クニッピングによる警報と予報は、クニッピングの御雇い契約が満期となる明治24年(1891年)3月まで続き、同年3月31日に退職した。これにより、以降暴風警報と気象予報は日本人のみで行うようになった。

彼は日本の気象事業を立ち上げたことに満足していた。彼は「この国にとってある全く新しくて必要なものを生み出すことができたのであり、私の持てる力を出し切り、最善を尽すのに骨身を惜しまなかったのである」と述べている [3]。彼は明治24年3月に勲三等瑞宝章が授与され、天皇陛下への内謁も賜った [17]。日本の気象事業に携わって9年、日本政府に初めて雇用されてから19年が経っていた。

クニッピングは帰国してハンブルグのドイツ海洋気象台に就職し、大正11年(1922年)にキールで79才の生涯を閉じた。ちなみに、クニッピングの娘は気象学者ケッペンの息子と結婚している。そして、ケッペンの娘は探検家であり気象学者だったウェゲナー(大陸移動説でも有名)の息子に嫁いでいる(このブログ「ケッペンについて2」l参照) [18]。

ハンブルグにあったドイツ海洋気象台
(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kersten-Miles-Bruecke_1900.jpg)

(このシリーズ終わり:次は「世界初の気象ジャーナリスト:ダニエル・デフォー(1)」)

参照文献

1. 気象庁. 第2章 気象事業の誕生. 気象百年史 I 通史.  気象庁, 1975.
2. ブラントン. お雇い外人 の見た近代日本. (訳) 徳力真太郎.  講談社, 1986.
3. エルヴィン・クニッピング. クニッピングの明治日本回想記. (訳編) 小関恒雄, 北村智明. 玄同社, 1991.
4. 初期の日本気象業務史(4). 鯉沼寛一.  気象庁, 測候時報, 35, p 300-306, 1968.
5. 岡田武松. 測候瑣談. 岩波書店, 1933.
6. 堀内剛二. 本邦暴風警報創業始末(2). 気象庁, 測候時報, 21, p 297-304, 1954.
7. 気象庁. 第1章 前史. 気象百年史Ⅰ 通史. 気象庁, 1975.
8  佐藤順一, 山田琢雄. 気象観測法の沿革. 気象庁, 測候時報, 8, p 414-424, 1937.
9. 堀内剛二. 本邦暴風警報創業始末(4). 気象庁, 測候時報, p 363-371, 1954.
10. 堀内剛二. 本邦暴風警報創業始末(3). 気象庁, 測候時報, p 337-344, 1954.
11. 篠原武次. 明治19年版の気象観測法と第1回気象協議会. 気象庁, 測候時報, 24, p183-188. 1957.
12. 岡田武松. 本邦天気予報事業の今昔. 気象庁, 測候時報, 19, p 311-315, 1952.
13. 気象庁. 第4章 気象事業の確立. 気象百年史 Ⅰ 通史.  : 気象庁, 1975.
14. 気象庁. 第5章 明治期の天気予報. 気象百年史 Ⅰ 通史. 気象庁, 1975.
15. 気象庁. 第5章 中央気象台沿革記録. 気象百年史 資料 I 来歴文書. 気象庁, 1975.
16. 中村精男. 中央気象台沿革概要. 中央気象台, 1925.
17. 堀内剛二. 本邦暴風警報創業始末(10). 気象庁, 測候時報, p 171-175, 1955.
18. 岡田武松. 気象学の開拓者. 岩波書店, 1949.

 

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