1. はじめに
ダニエル・デフォー(Daniel Defoe, 1660-1731)は、小説「ロビンソン・クルーソー(1719年)」、「ペスト(1722年)」、「モル・フランダース(1722年)」、「ロクサーナ(1724年)」などの多くの小説で知られるイギリスの有名な作家である。「ロビンソン・クルーソー」の執筆には、世界を周回した自然主義者(兼海賊)ウィリアム・ダンピアが絡んでおり、そのことは本書の「3-6-1 ウィリアム・ダンピア」の項でデフォーと共に説明した。
デフォーがまだそれらの小説を書く前の1703年11月に、英国史上まれに見る大嵐が英国を襲った。この嵐は、今日でも英国に嵐が襲うと1703年の嵐との比較が議論されるほどの被害を与えた。
デフォーはその時の各地の被害状況を調べて、1704年に「嵐(The Storm)」という重要な作品を書いた(正式の名称は「The Storm or a Collection of the Most Remarkable Casualties and Disasters that happened in the late Dreadful Tempest both by Sea and Land(嵐、あるいは恐ろしいテンペスト*によって起こった海と陸上での驚くべき死傷者と災害の記録)」である)。
デフォーの「嵐」はその手法から小説ではなく、災害を克明に記録した世界初のルポルータジュ(記録文学)と見なされている。そのため、これは嵐による状況や被害を多くの人々へ伝え、後世に残す貴重な文学となっている。
現代では災害が起こると、多くのジャーナリストが現地から災害状況の放送などを行なったり、被害状況をまとめたりすることを行っている。いつどこでどういうことが起こったのかということは、その時代においても後世においても重要な情報となる。
当時そういった概念がどの程度あったのかは定かでないが、デフォーはこの作品によって、いわゆるジャーナリストの先駆けの一人となった。彼がこの世界初の気象災害のルポルタージュを書いた背景や状況を解説する。
ダニエル・デフォーの肖像画
http://www.nmm.ac.uk/collections/displayRepro.cfm?reproID=BHC2648
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