高層での等温層のさらなる確認のために、高層気象観測が世界規模で行われた。1903年にはベルソンらが極域で観測を行った。1904年にはロッチによってアメリカでも探測気球観測が行われて、高層での等温層の存在がアメリカでも確認された。1906/1907年にはヘルケゼルと海洋学者でもあったモナコ王子(アルベール1世)が北極圏内のスピッツベルゲンで観測を行った。1907年からテスラン・ド・ボールは、北極圏ラップランドのキルナで調査を行った(結果は彼の死後に出版された)。1909年にはヘルケゼルは熱帯のスマトラで高層気象観測を行った。同年にテスラン・ド・ボールは、等温層が始まる高度が夏季に高く冬季に低く、また高緯度より低緯度の方が高いことを発表した。これで、成層圏の世界規模での特徴がおおよそわかった(Hoinka, 1997)。
気温の鉛直分布(気象庁提供) |
どうして上空に高温の層がある原因も謎だった。本の8-4-3「成層圏の発見」で述べたように、1909年にイギリスの気象学者ゴールド(Ernst Gold)とショーは、理論計算から二酸化炭素と水蒸気の放射・吸収から上空に温度が下がらない層がある可能性を指摘した(Gold and Shaw, 1909)。当時太陽スペクトルの観測や地上実験から、上空に二酸化炭素、水蒸気、オゾンの3つの気体が存在して太陽放射と地上からの長波放射を吸収することがわかっていたが、それらの鉛直分布はわからなかった。
つくば上空のオゾンの鉛直分布例 (気象庁提供) |
二酸化炭素は高度100 km近くまで濃度はほぼ変わらず(それ以上では重力分離を起こす)、水蒸気は通常は地上近くに濃度のピークがある。本のコラム「成層圏オゾンの発見」で述べた観測から、現在ではオゾンの鉛直分布は高度20 kmから30 km付近にピークがあることがわかっている。実は上空の等温層に対するオゾンによる放射・吸収の影響も当時検討されていた(Gold and Shaw, 1909)が、鉛直分布がわからなかったため、オゾンの寄与は小さく見積もられた可能性がある。オゾンによって成層圏が暖まる理由とそれを引き起こす反応が一応わかったのは、1930年のイギリスの地球物理学者チャップマン(Sydney Chapman)による、酸素分子の光分解から始まる成層圏オゾンの光化学反応(チャップマン反応)の提案によってである。
チャップマン反応。Mは窒素などの第3の分子、hはプランク定数、νは波数、λは波長 |
(つづく)
参照文献
参照文献
- Gold and Shaw-1909-The isothermal layer of the atmosphere and atmospheric radiation. Proc. Roy. Soc. London (A) 82, 43-47.
- Hoinka-1997-The tropopause: discovery, definition and demarcation, Meteorol. Zeitschrift, N.F. 6, 281-303
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