1954年の一連の核実験とその被害を契機に、熱帯成層圏での気象観測が強化された。イギリス気象局のグレイストーンは、現在キリバス領になっているクリスマス島(2.0N, 157.4W)上空の16.8~30.5 kmでの10日平均の東西風を調べた。ところが、初期には上層で西風、低層で東風だったのが、調査の最後の期間では上層で東風、低層で西風に変わったことを初めて示した [4]。
イギリス気象局のエブドンは、もっと広い熱帯成層圏の風を調べた。彼は「ベルソン西風」が見つかることを期待したが、観測されたのは東風だった。ところが、彼は50 hPa(高度約20 km)で1957年1月にほぼ赤道を一周していた東風が、1958年1月には西風に変わったことを発見した。彼はより長い観測結果が利用できるカントン島 (2.8 S, 171.7W)上空50 hPaのデータを調べると、1954年、1956年、1958年の1月は西風となっていたのに、1955年、1957年と1959年の1月は東風となっていたことを発見した。彼は成層圏の風向が2年周期で変わると結論した [4]。イギリス気象局のエブドンとベリヤードは、この研究を拡大した。彼らはカントン島上空50 hPaの1954年1月から1960年1月までの毎月の平均東西風の時系列を示して、25~27か月の周期での風向の逆転を示した。彼らはクリスマス島やアフリカのナイロビなどのデータを使用して、この変動が赤道帯に沿ってほとんど同時に起こっていることを示した。また、風向の変化が高高度から始まってだんだん下降してくることを発見した。彼らは、高度10 hPa(約30 km)での変化が高度60 hPa(約18 km)に達するのにおよそ1年かかると推定した [4]。
赤道付近上空の東西風の成層圏準二年振動の例。縦軸は高度。横軸は年。赤い領域は西風、青い領域は東風を示す。年や高度によってばらつきはあるが、およそ2年で東風が西風に変わっていることがわかる(https://en.wikipedia.org/wiki/Quasi-biennial_oscillation#/media/File:QBO_Cycle_observed.svg)
ほぼ同時期に、アメリカ気象局のリードも東風と西風の境界が高度30 km付近から下がってくることと、その周期が約2年であることを発見した。当初、この成層圏での周期的な風向変化の現象は「26か月振動」と呼ばれたこともあったが、アメリカ気象局のエンジェルとコーンショウバーは1963年に始まったより長い周期をもつ観測結果から、この現象に「準二年振動(Quasi-Biennial Oscillation)」という言葉を充てた [5]。現在では、略してQBOと呼ばれることが多い。その周期は実際には22か月から34か月で変動している。
つまりクラカトア東風とベルソン西風は、それぞれQBOの東風時と西風時に観測されたものと推測される。なお、クラカトア火山噴火による噴煙の移流をジェット気流の発見のきっかけとしているものがある( [6]など)。しかし、クラカトア火山噴火の際の煙の移流は熱帯での東風によるもので、しかも成層圏の出来事である。ジェット気流は中緯度対流圏上層の西風の現象なので、クラカトア火山噴火による噴煙の移流は、ジェット気流の発見との関連はない。(成層圏準二年振動の発見(3)赤道上空での波の発見 へとつづく)
Reference(このシリーズ共通)
[1] Kevin-2012-Sereno Bishop, Rollo Russell, Bishop's Ring and the Discovery of the Krakatoa Easterlies, Atmosphere-Ocean, 50, 2, 169-175.
[2] Bishop-1884-The remarkable sunsets, Nature, 29, 259-260.
[3] Bishop-1884-The equatorial smoke stream from Krakatoa, Hawaiian Monthly, 1, 106-110.
[4] Maruyama-1997-The Quasi-Biennial Oscillation (QBO) and Equatorial Waves - A Historical Review, Papers in Meteorology and Geophysics, 48, 1, 1-17.
[5] Baldwin et al.-2001-THE QUASI-BIENNIAL OSCILLATION," Reviews of Geophysics, 39, 2, 179-229.
[6] Simon Winchester, A Tale of Two Volcanos. New York Times, 15, 4, 2010.
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