2020年3月28日土曜日

気象予測の考え方の主な変遷(1) 古代ギリシャ時代

 気象予測の背景となる考え方の歴史的変遷を、「決定論的」と「決定論的でない」という2つ観点から概観しておく。これは「気象学と気象予報の発達史」の本における歴史的観点の一つともなっている。「決定論」という言葉は厳密には別な定義があるかもしれないが、この本では「原因や兆候がわかれば一意的に結果が決まると信じられている」という意味で使っている。「決定論的でない」とは、反対にそうではないという意味である。なお、[ ]内は本での詳しい記述箇所を示す。
気象予測の背景となる考え方の歴史的変遷
 古代ギリシャの自然哲学者でもあるアリストテレスは、アレキサンダー大王のバビロニア征服により入ってきたバビロニアの詳細な天文観測の結果をもとに、地球を中心として他の星が同心円の軌道を持つ宇宙構造のモデルを考えた(地球中心説)。そして宇宙を含む世界は、月とその先の「天上界」と、月より地球に近い「地上界」からなっていると考えた [1-1-1古代ギリシャ人による気象の観察と考察]。なお、別の回で述べる彗星は、当時地上界の出来事と考えられていた。

 アリストテレスが考えた天上界は、エーテル(アイテール)からできており、高貴なもので永遠に不生不滅である。また地上界は四元素(土、水、空気、火)からできており、通俗的で万物が流転して変化する。この世界観は「二元的宇宙像」と呼ばれて、その後ニュートンによる「一元」的な万有引力の考えが出てくるまで2000年間にわたって信じられた[1-1-2アリストテレスの宇宙像]。彼によって多くの人々がイメージできる宇宙構造のモデルが示されたことは、その後の科学にとって重要だった。このモデルがあったからこそ、後世に地球中心説や太陽中心説という議論に大勢が関与することができた。

 また、潮汐などは太陽や月の天上界の動きに従って起こる。そのため、アリストテレスは、地上界のさまざまな現象は天上界の天体の位置によって影響を及ぼされていると考えた。そして彼は天上界の地上界への影響をまず自然を通して説明しようとした。そのため、彼が述べた天体による地上への影響も、おのずと地震、洪水、嵐、豊作不作など自然や気象に関することが多かった[1-1-2アリストテレスの宇宙像]

 アリストテレスは有名な気象論「メテオロロジカ」を著し、その中で地上界の多くの自然現象を説明しようとした。彼は、気候帯は太陽高度(緯度)で決まると考え、太陽の傾き(clima)はその後気候(climate)の語源となった。また、彼は地上界において「蒸発気(exhalation)」という概念を創造し、乾いた蒸発気の一部が天上界に引っ張られて水平方向に地球を巡る風となると考えた。これは、その後風の原因として長く信じられた。また彼は風を空気の動態とはせず、風かどうかはその始原(実体)が乾いた蒸発気かどうかによって決まると考えた[1-1-3 アリストテレスの気象論]

つづく

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