2022年8月19日金曜日

大規模核戦争の場合の影響 その2 最近の成果

このブログの 「大規模核戦争の場合の影響」において、核戦争の恐ろしさを説いた。その際に、「1980年代以降、核戦争による影響の包括的な研究はあまり聞かないので、近年はそのような研究はあまり行われていないのかもしれない。」と書いた。しかし、実は近年もさまざまな研究が行われていた。2020年に、別な研究でインドとパキスタンの地域的な紛争で核が使用されたら、という比較的限定的な核戦争のシミュレーションが行われた。それでも世界的な作物不足に陥る可能性が示された。

今回、2022年8月15日にNature Food誌に「Global food insecurity and famine from reduced crop, marine fishery and livestock production due to climate disruption from nuclear war soot injection(核戦争の煤煙注入による気候変動のために起こる作物、海洋漁業、家畜の生産減少による世界の食糧難と飢饉)」と題する論文が掲載された。

いくつかの核戦争のシナリオの元で、大量の排出された煤の煙によって気候がどう変わり、それによって穀物や漁業の生産がどうなるかをシミュレーションしたものである。核戦争のシナリオは核爆発が100発から4400発の場合にまでわたっている。もし1発でも核攻撃が使われると、たがが外れた状態になって、このような核攻撃の応酬にならないとも限らない。

最小の100発の爆発シナリオでも、直接的な死者は2700万人で、2年間で2億5000万人以上が飢饉に直面すると試算している。もちろん、飢饉に直面するのは発展途上国の人々だけとは限らない。ほとんどすべての国で、大量の食糧不足につながり、畜産と水産物生産は、減少した作物生産量を補うことができないことを実証しているとしている。4400発の爆発の方は人類にとって論外の結果となっている。

こうした試算には不確定な要因も多く、まだ改善の余地がある。また、これは爆発の際に発生した煤が成層圏へ上がって日射への影響を考慮した場合となっている。しかし、オゾンや紫外線への影響への収穫への反映はまだ限定的である可能性があるし、放射能の人体への直接的な影響は考慮されていないようである。それでも、最新の気候モデルに作物モデル、漁業モデルを組み合わせたこの試算結果は、食料供給に対する最新の科学といえる。

こういった試算に基づいて、仮説的な飢饉と戦う方法を探るように提案しているものもある。海藻を安定した食料にしたり、バクテリアを使って天然ガスをタンパク質に変える研究も行われているそうである。しかし、私にはこういった技術で飢饉が劇的に改善するとは思えない。現在の暮らしは決して保証されているというわけではないことを心に留めておく必要がある。

これまで核戦争になる危機が3回あったと言われている。一つ目は1962年のキューバ危機で、二つ目はソ連がNATO軍事演習を本当の攻撃と間違えた1983年のエイブル・アーチャー事件、そして三つ目は、今回のロシアによるウクライナ侵攻である。大規模核戦争の場合の影響」でも述べたように、核戦争に勝者はいない。核戦争にならないように、世界のリーダーたちに対して世界の一人一人が強く運動していくしかないと思う。

エメリー核実験の際の爆発の様子
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b2/Operation_Emery_-_Baneberry.jpg/385px-Operation_Emery_-_Baneberry.jpg

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