2021年2月2日火曜日

大気圏核実験に対する放射能観測(3)

 4.2 浮遊塵の放射能観測

 浮遊塵の放射能観測では、放射線を測定するために、週に3回集塵装置で地表から1 mの高さの空気を毎時約1.5 m3の割合で5時間吸引し、空気に含まれている塵をフィルタに吸着させた。吸引量は1964年4月から毎時60 m3に増やされた[4]が、観測は1970年6月から週1回に変更された。塵が吸着したフィルタは電気炉で灰化されて、その灰から放出される全ベータ線量がGM計数装置を用いて測定された。

集塵装置
Airborne Dust collecting system

全ベータ線測定
Gross Beta-Radioactivity


 以下に測定結果の経年変化を示す。

浮遊じんの全β放射能月平均濃度の経年変化図。上から札幌、東京、福岡。(気象庁「放射能観測成績」より)
Time Series of Monthly Mean Concentration of Gross Beta-Radioactivity in Airborne Dust

 改めて後述するが、1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故が起こると、事故で放出された放射性物質が日本でも観測された。本来核実験を想定して行われていた気象庁の降水降下塵や浮遊塵の全ベータ線測定では、原子力発電所等の事故によって放出されて人体へ影響を及ぼす放射性物質であるヨウ素131やセシウム137等を区別して検出することができなかった。それは原子力発電所の災害に対しての監視が十分でないことを意味した。

 1987年から管区気象台において放射性物質の種類を特定するためのガンマ線核種分析装置の導入が開始された。核種分析では塵を吸着させたフィルタを測定容器に入れ、その容器は高純度ゲルマニウム結晶の半導体検出器を用いたガンマ線核種分析装置により7200秒間測定された。その結果を多重波高分析器(Multi Channel Analyzer)を用いたガンマ線のエネルギースペクトル分析にかけることにより、放射性核種(セシウム137、ヨウ素131等)ごとに量が特定された。半導体検出器は、ノイズを減らすために液体窒素で-200℃に冷却され、また外部からのガンマ線の影響を受けないように鉛で遮へいされた[3]。

4.3 放射性ガスの連続観測(放射能レーダー)

 原子炉の基礎研究を行うために1956年に日本原子力研究所(Japan Atomic Energy Research Institute)が発足し、茨城県東海村に研究用原子炉が建設された。東海村から15 km南には水戸市がある。もし原子炉の事故が起こると水戸市の住民がその被害を受ける懸念があった。そのためには空気中に含まれる放射性ガスを連続的に測定する必要があり、1962年2月から水戸地方気象台で放射能の測定を行うことになった。

 原子力施設から出て来る放射性ガスを測定する方法として、放射性ガスの電離作用によって発生した電磁電流の変動を自動記録することになった。放射能観測は、水戸地方気象台内に新しく建てられた建物の屋上から空気を大きな電磁箱内に引き込み、箱の中の電離電流を振動容量電位計で測定して、その値は自動記録された。

 放射性ガスの観測は、1962年2月10日から水戸地方気象台で開始された。翌朝の地元紙は、大きな見出しで「原子力研究所を監視する水戸地方気象台の放射能レーダー」という記事を載せた。レーダーという言葉は比喩として使われただけで、実際の観測方法はレーダーの原理とは全く関係はなかった。観測の開始後に東海村での原子炉に大きな事故はなく、またこの測定はノイズの影響を受けやすいために1966年4月に廃止された[3]。

つづく

参考文献(このシリーズ共通)

[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Castle_Bravo
[2] Miyake(1954)The artificial radioactivity in rain water observed in Japan from May to August、 1954、 Papers in Meteorology and Geophysics、 5、 173-177.
[3] 気象庁(1975)放射能観測業務回顧、気象百年史 資料編、267-272.




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