2021年1月27日水曜日

大気圏核実験に対する放射能観測(2)

 4. 放射能測定


 放射能の観測にはその対象や測定手法により幾種類かの観測がある。ここでは、降水降下塵の放射能観測、浮遊塵の放射能観測、放射能レーダー(放射性ガスの連続観測)、微気圧計(核爆発による大気波観測)、モニタリングポスト(大気中ガンマー線の連続観測)、放射能ゾンデ(高層大気の放射能観測)について、解説する。

4.1 降水降下塵の放射能観測

 降水降下塵の放射能観測は、地表に降下した雪を含む降水と降下塵を集めて、放射性物質の濃度及び降下量を測定するものである。これには「定時測定」として、1日1回定期的に雨の採取が行われるものと、「定量測定」として降り始めの雨だけを採取して測定するものの2種類があった。

 定時測定は、毎日午前9時に溜まった雨水の中から100 mlを抽出して試料とし、磁製蒸発皿で加熱して濃縮した。この試料の蒸発残留物をさらに試料皿に固化させ、GM計数装置を用いてこの試料の放射性物質から出る全ベータ線を測定した。全ベータ線とは試料から放出されるベータ線量を、エネルギー区分なしに計数したものである。

  定量測定では、大気中の降水洗浄過程によって落下する放射性物質からの放射能の総量を知るために、降り始めの最初の降水量1 mmの雨(試料としては100 ml)だけを集めて、その全ベータ線を測定した。分析手法は定時測定と同じだが、降り始めの雨だけを採取するために、採取器に特殊な工夫が行われた。なお、定量測定は1963年6月で終了した。

降水採取装置
Precipitation-sample collecting system


試料の濃縮と堅固
Condensation and solidification of precipitation sample


降水中の全ベータ放射能月間降下量の経年変化図(上から札幌、東京、福岡。気象庁「放射能観測成績」より)。Bq(ベクレル)とは単位当たりの物質から放射される放射能の強さである。なお、放射能が人間に与える影響の単位にはシーベルト[Sv]が用いられる。これは同じ線源でも、そこからの距離や時間などによって異なる。
Time Series of Monthly Deposition of Gross Beta-Radioactivity in Precipitation

 これに加えて、雨水の放射化学分析のために、5か所の管区気象台で半径79.8㎝のステンレス製の大型水槽を用いて地表に降下した降水と塵が毎月1回採取された。採取された試料水は気象研究所へ送付され、そこで人体に最も影響の大きいストロンチウム90やセシウム137等の量が放射化学分析により測定された[3]。この観測地点は1977年以降、11地点に拡大された。

放射化学分析用の試料採取のための大型水盤
Large basin for chemical analysis of radioactivity  

つづく

参考文献(このシリーズ共通)

[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Castle_Bravo
[2] Miyake(1954)The artificial radioactivity in rain water observed in Japan from May to August、 1954、 Papers in Meteorology and Geophysics、 5、 173-177.
[3] 気象庁(1975)放射能観測業務回顧、気象百年史 資料編、267-272.


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