標準化された温度体系を用いた定量的な気温観測は18世紀から始まっており、教養があり裕福な個人が残した気象日記(weather diary)の中には定量的なデータが含まれている場合がある。そのような初期のデータは気候変動の研究に利用できる場合がある。
「気候学の歴史(5) 気候データの保管」では、世界気象記録(World Weather Records: WWR)に触れた。これは世界各地の気象観測データをまとめたものであるが、地点を限ればもっと古い系統的な気温データがある。
そのような例として1600年代からイギリスで行われたいくつかの個人による測定値がある。それらによってブリストル、マンチェスターとロンドンに囲まれているほぼ三角形の地域の長い一連の気温データが残された。それらは観測に関するさまざまな情報を総合し、精度をクロスチェックした上で、Hadley Centre Central England Temperature (HadCET) datasetと呼ばれるデータセット[1]に編集された。この記録は月平均気温は1659年1月から始まっている。1722年からは日平均気温も整備されている[2]。
Hadley Centre Central England Temperature (HadCET) dataset |
単に残されたデータをデジタル化しただけでないことに注意していただきたい。測定手法や観測環境の変化もできるだけ考慮して、かなり手間をかけて科学的な品質評価を行った上で作成されている[3]。気温の長期トレンドの算定には、観測場所の移動や、測定器の交換、較正方法、観測頻度の変化などあらゆることを定量的に評価しなければならない。それでも、都市化などの周囲の観測環境の変化を厳密に考慮することは難しい。
これらの影響を受けにくい気温トレンドの把握方法がある。それは高度が異なる2地点の気圧を利用するものである。それは本の4-8「測高公式の発見」で解説している層圧温度(thickness temperature)を用いる方法である。これは層圧温度なので、点ではなく層内の平均温度となる。これは逆に局地的な気温変化ではないというメリットにもなる。気圧計は、原理上温度計より較正を含む測定器の精度管理を行いやすく、観測誤差も一般に小さい。また気圧を見ているので、都市化や風通しの変化などの周囲の観測環境の変化の影響を受けにくいのでより正確な気温が算出できる。ただし、高度が異なる比較的近い2地点での観測結果が必要となる。
層圧温度の概念図(Concept of Thickness Temperature) Tc<Tw |
(次は「フンボルトとコロンブス」)
参照文献
[1]https://www.metoffice.gov.uk/hadobs/hadcet/[2] D.E. Parker, T.P. Legg and C.K. Folland. 1992. A new daily Central England Temperature Series, 1772-1991. Int J Clim, 12, 317-342.
[3] G. Manley. 1974. Central England Temperatures: monthly means 1659 to 1973. Quart four Roy Meteor Soc, 100, 389-405.
[4]Tsutsumi,Y.-2018-Multidecadal Trends in Thickness Temperature, Surface Temperature, and 700 hPa Temperature in the Mount Fuji Region, Japan, 1965-2016, Journal of Climate, 31,20 , 8305-8312.
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