2021年5月15日土曜日

南方振動の発見者ギルバート・ウォーカー(8)

 5. その他の研究

5.1. 鳥の飛行研究

インド気象局の彼の任期の間に、ウォーカーは公務以外の多くのものに興味を持った。それらの1つに、鳥の滑空と羽ばたきがあった。彼はハゲワシとトビが200 mほどの高さまで羽ばたいた後、700 m以上の高さまで螺旋状に滑空しながら上昇する方法を発見した。これは、彼の舞い上がってはばたく様々な種類の飛行という研究のきっかけとなった [1]。その成果は1925年、1927年、1930年に発表された。それがきっかけで、彼はブリタニア百科事典の動物飛行の項目の執筆も行った [6]。

これらの研究の結果は、彼が自らグライダーで飛ぶことへの興味も誘った。1911年に彼はグライダーの滑空性能と気象条件との関係に関する短い説明をNature誌に発表した。後年、彼はグライダーの操縦に挑戦したが、彼にとって残念だったことは、熟達したパイロットになるには65才では遅すぎたということだった [1]。

5.2. スケート

ウォーカーの興味のもう一つはスケートだった。すでに述べたように、インドに行く前に彼はスイスへ毎年訪問してスケートを楽しんだ。彼がインドに行ったとき、インド北部の避暑地になっているシムラの冬の夜の強い放射冷却が、スケートリンクの作成を可能にすることを発見した。放射冷却による冷気を逃さないように、大気の流れを防ぐスクリーンを用いて、彼はそこにスケートリンクを作ることに成功した。実際には、あまりの冷たさにスケートの歯が立たないほどスケートリンクの氷が硬くなることがあり、その際には逆にスクリーンを取り外すほどだった [1]。

5.3. フルート

彼はフルートの優れた演奏者であっただけでなく、その楽器の理論的な研究を行って、その成果の学術的な出版も行った。フルートは、低い方から2オクターブまでの音は連続して穴を開ける規則的な指使い(運指)で演奏できるが、3オクターブ目は不規則な指使い(クロス・フィンガリング)が必要である。彼はその音域における新たな指使いを提案した。その指使いで発生する理論的な音節の位置は、実際の音節と概ね一致し、いくつかの新たな指使いが考案された。現在、一部のフルートはウォーカー提案に沿って作られている [1]。

5.4. 人材発掘

ウォーカーはインドにおいて、人材発掘にも大きな役割を果たした。彼はある日気象測器の点検にマドラスへ行った際に、港湾事務所の所長から風変わりな事務員が書いた数学の走り書きを見せられた。ウォーカーはその事務員が天才的な数学能力を持っていることを見抜き、マドラス大学へ入学できるように手配した。彼こそが後に天才的な数学者となるシュリニヴァーサ・ラマヌジャン(Srinivasa Aiyangar Ramanujan)だった [16]。ウォーカーは彼をケンブリッジ大学の数学者ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディの所へ留学できるようにも尽力した [6]。また、ノーベル物理学賞受賞者であるチャンドラセカール・ラマン(Sir Chandrasekhara Venkata Raman)や後に国際測地学及び地球物理学連合(IUGG)の会長を務めたK. R. ラマナサン(K. R. Ramanathan)の発掘や育成にも関わった [6]。

チャンドラセカール・ラマン

https://en.wikipedia.org/wiki/C._V._Raman#/media/File:Sir_CV_Raman.JPG

 6.イギリスへ戻った後

1904年に王立協会の会員になっていたウォーカーは、1924年にインドから引き上げて後、ナイトの称号を受けた。彼は著名な気象学者ネイピア・ショー卿の跡を継いでロンドンのインペリアル・カレッジの数学科教授となり、1934年まで教授を務めた。彼はその新しいポストで統計作業を続けたが、他の物理的な問題に関心を向けることも行った。雲形とそれを引き起こす物理的な状態は彼に常に興味を起こさせた。彼と彼の弟子たちは、実験室で不安定流体を下から熱して対流速度の違いによる効果を確かめる実験を行い、様々な雲の形成過程を研究した [6]。1926年と1927年には、王立気象学会の理事長を務め、1934年には王立気象学会のサイモン金メダルを受賞した [2]。1933年には英国学術協会の部門長を務めた。第二次世界大戦の間、彼は空軍省の気象委員会の下で長期予報や高層気象観測結果の相関、ヨーロッパの気象と北極の海氷との関係を研究した [6]。彼は1958年11月4日に90才で亡くなった。

 (つづく

参考文献(このシリーズ共通)

[1] Taylor I.G., 1962: Gilbert Thomas Walker. 1868-1958. Biographical Memoirs of Fellows of the Royal Society, The Royal Society, 8, 166-174.
[2] Walker M.J., 1997: Pen Portrait of Sir Gilbert Walker, CSI, MA, SCD, FRS. Weather, Royal Meteorological Society, 52, 217-220.
[3] Walker T.G., 1901: boomerangs. Nature, Nature Publishing Group, 64, 338-340.
[4] 田家康, 2011: 世界史を変えた異常気象, 日本経済新聞社.
[5] Normand C., 1953: Monsoon seasonal forecasting. Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society, Royal Meteorological Society, 79, 463-473.
[6] Pisharoty R.P., 1990: Sir Gilbert Walker-pioneer meteorologist and versatile scientist. CURRENT SCIENCE, Current Science Association, 59, 121-122.
[7] Walker T.G., 1923: Correlation in seasonal variations of weather. VIII. A preliminary study of world-weather. Memoirs of the Indian Meteorological Department, Indian Meteorological Department, 24, 75-131.
[8] Hildebrandsson H.H., 1897: Quelques recherches sur les entres d'action de l'atmosphere. Kongl. Svenska vetenskaps-akademiens handlingar, P.A. Norstedt & s?ner, 29, 33pp.
[9] Lockyer J. N. and Lockyer W. J. S., 1903: On the similarity of the short-period pressure variation over large areas. Royal Society of London, Proceedings of The Royal Society, 71, p467-476.
[10] Katz W. R., 2002: Sir Gilbert Walker and a Connection between El Nino and Statistics, Institute of Mathematical Statistics, Statistical Science, 17, p97-112.
[11] Walker T. G., 1924: Correlation in seasonal variations of weather. IX. A further study of world weather. Indian Meteorological Department, Memoirs of the Indian Meteorological Department, 24, p275-332.
[12] Walker T. G., 1933: Seasonal Weather and its Prediction, Nature Publishing Group, Nature, November 25, p805-808.
[13] Walker T. G., 1918: Correlation in seasonal variations of weather, Royal Meteorological Society, Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society, 44, p223-224.
[14] Walker T. G., 1925: On periodicity, Royal Meteorological Society, Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society, 51, p337-346.
[15] Walker T. G., 1931: On periodicity in series of related terms, Royal Society of London, Proceedings of The Royal Society of London, Ser. A 131, p518-532.
[16] venkataraman. g., 2019: Journey into Light life and science of C.V. Raman. Indian Academy of Sciences in co-operation with Indian National Science Academy.

0 件のコメント:

コメントを投稿